ゆず
昔、祖父母の家で「ゆず」という真っ黒な雑種犬を飼っていました。祖父母の家は山の中にあり、猿よけのために飼った犬でしたが、おとなしくまったく吠えない犬でした。
ゆずがきた後に、さらに犬が2匹増えました。
力丸とコタローです。
眉間に縦皺の入ったいかつい顔のコタローは意外と人懐こく愛嬌があり、かわいいクリッとした目をした力丸はガウガウと歯を剥き出しにして、威嚇してくるので怖くて近づけませんでした。
ある日、母が3匹を連れて散歩に行くと
突然、力丸がゆずのお尻に噛みつき、母がコラッ!と怒った次の瞬間、普段おとなしいゆずが力丸にガブリと噛みつき反撃したので、母はこれはいかん。と散歩をすぐにやめたそうです。
それからしばらく経った頃、ゆずは脱走したまま帰ってこなくなりました。
その後の祖母は新聞の迷い犬の欄を見て「ゆずがいる!」と言いながら、全く違う犬を指差すのです。
可愛がっていたゆずがいなくなったことはやはりショックだったのでしょう。
わたしはゆずを思い出すと、時間が経ったなぁとぼんやり思います。
祖母は昨年癌で亡くなりました。
よう来たな。と笑顔で迎えてくれていた祖母、
可愛かったゆずは脱走していなくなりました。
力丸、コタローも天国へ。
高齢になった祖父は認知症を発症し、施設へ。
時間が経つこと、
それは当たり前のことです。
ただ、たまに思い出すと懐かしくて、ぎゅっと胸が切なくなります。